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本気で考えておきたい『愛猫の引き継ぎ』

家庭で暮らす猫の寿命が延びていることで、人間とペットの同居に対する考え方も、
これまで通りにいかない状況が徐々に生まれつつあります。

単身世帯でもペットを飼うこと自体に問題はありませんが、
一緒に過ごす時間が長くなれば、ペットの加齢によるケアなど、現実的な問題も増えることを忘れてはいけません。

必要なのは、この先の愛猫と自分自身のライフプランニング。
ひとり暮らしの飼い主が、部屋にペットを残して孤独死……というニュースを見るたびに、
もし世話をする人間の体力や気力が追いつかなくなってしまったら、という怖さを覚えることもあります。

愛猫が長生きできる世の中になっても、
その生命線が飼い主に委ねられていることに、変わりはありません。

もし自分に万が一のことが起きたら、どうしよう。
家族の誰もが愛猫の面倒を見られなくなった時、誰に頼ればいいのか。

もしかしたらこのテーマは、猫と暮らすすべての世帯が
すぐにでも考えておかなければならない、大切な危機管理の1つかもしれません。

◆コロナ禍で実感した「誰の身にも起こること」

寝る猫

私の知人が2人、新型コロナウイルスに感染して隔離を余儀なくされました。
2人とも年齢は現役世代で、猫と暮らしています。
まだ感染拡大の初期だったため、陽性判定後すぐ指定のホテルに入れたそうですが、自宅を離れた日数は約1週間にも及びました。

残された猫たちは、1人は同居する家族に、もう1人は近くに住んでいた親に世話を頼むことができたそうです。どちらも大事に至らなくて何よりでした。

それぞれの話を聞く中で感じたのは、
もし同居する家族全員がコロナに感染してしまったら、もし近所に頼れる肉親がいなかったら、という想定や準備の大切さです。

新型コロナウイルスの陽性判定を受けてしまうと、他者との安易な接触ができなくなります。症状によっては入院などの措置となり、帰宅はもちろん、家族と直接会って話をすることも難しくなるでしょう。

もちろん愛猫と会うこともできないため、もし本人以外に日常的な愛猫の世話をできる人がいないとなれば、いろんな支障が出てしまいかねません。

コロナに限らず、入院が必要となる病気やケガ、そして災害や事故など外出中に起こるかもしれない不測のトラブルについても同じことがいえます。

愛猫がいる家庭に限らずですが、いつ非常事態が起きるか分からない中で日常を過ごしていることを、我々は改めて認識しておく必要があるのです。

◆愛猫は成長すれども、自立することはない。

白猫
家庭にいる愛猫たちは、子猫から大人の猫へと育っていく中で、
人間に慣れ、トイレを覚え、生きていく上での社会性を徐々に身につけていきます。

ごはんを待つことも、お留守番もできるでしょう。

ただ当然ながら、人間の子供のように「親がいなければ自分で」とはなりません。

万が一の時だけ、愛猫が自らフードをお皿に入れて食べてくれたら……
想像するのは自由ですが、ありえない話ですね。

家庭動物たちが、人間社会で自立することはありません。
責任を負うべきなのはもちろん、彼らをこの空間に迎え入れた側である、人間です。

東日本大震災のように、多くの人が帰宅難民となってしまった時の想定など、
防災計画の延長で考えていくテーマの1つとなるでしょう。

家族全員が自宅を空けることになってしまった時、
愛猫の命を守るために何ができるのか、何を備えておくべきなのかを、具体的なものにしておくこと。これもまた、飼い主にとっての義務となります。

◆増えつつある「孤独死による飼育崩壊」

愛猫を一時的に預かってほしい、と頼める人はいたとしても、
愛猫を最期までお世話してほしい、と頼める人はいるでしょうか。

単身世帯の飼い主に深刻な健康問題が生じた時、
愛猫の終生飼養を果たせそうにない自分の代わりとなってくれる人を、あらかじめ探しておく必要があります。

孤独死の件数は、確実に増えています。
少し古いですが、ニッセイ基礎研究所が2011年に公表した推計によると、「自宅で亡くなり、死後2日以上経過していた」件数が、全国の65歳以上で年間約2万6千人。

また大阪府警が2019年に公表したデータでは、大阪府内で死後2日以上経過して発見された、事件性のない死者が約3千人。その内の2割については50代以下だったといいます。

もちろんこの中には、動物と暮らす単身世帯も含まれており、
猫や犬たちが力尽きた姿と一緒に見つかったケースも、少なくありません。

縁起でもないことを考えるのは、気が引けるかもしれないですが、
愛猫まで共倒れになってしまうのは、事実上の「飼育崩壊」となります。

自分が愛猫の面倒を見られない身となった時、
愛猫の余生を誰に引き継いでもらうかの問題については、なるべく前もって、それも長期的な目で思案する必要があるかもしれません。

◆“愛猫を託す”という選択肢

これは実際に聞いた話ですが、
あらかじめ引き継ぎをお願いしている友人とて、当人の事情によりある日突然「ごめん、無理になった」という答えが返ってきた例があったそうです。

口約束だけでは難しい部分もある。その想定もしながら、できる限りの選択肢を作っておいたほうがいいのは、この引き継ぎ問題にも当てはまるでしょう。

周りに頼れる人がいないとなれば、この先サービスの拡大が予想される「ペット信託」も検討材料の1つとなります。
ペット信託は、病気やケガによって面倒を見られなくなったペットを、第三者の個人や団体に託せる仕組みです。

飼育にかかる費用は自分の財産から支払ってもらう形となるので、委託先にかかる負担は大きくなりません。
さらには自分の死後についても、信託財産によって金銭的な保証が維持されるため、ペットは終生まで不自由なく生活できるのです。

ペットの信託契約は家族に対しても行うことができます。
双方が安心して愛猫を託し、託される形もまた、不幸な猫や犬を増やさないための受け皿として普及していく可能性はありそうです。

◆自分が元気なうちにできることを

シャム猫
私が製作した「ねこライフ手帳」にも、自分の身に何か起きた時のために、愛猫を引き継ぐ先を記入するページを設けています。

前述の通り、愛猫はどれだけ成長しても自立はできないので、飼い主には終生まで食事や住空間などの世話をし続ける義務があります。

愛猫が自分より長く生きる可能性があるなら、引き継ぎを考えておくことは今後の共生における必須項目となるでしょう。

飼い主が息絶えた後、家に愛猫だけが残されてしまう現場を増やさないために、
1人1人の愛猫家がいまできること、さらに自分がこの世を去った後に託すべきことを、愛猫ともども元気なうちに考えておきたいものです。

松尾 猛之(まつお たけし)

ねこライフ手帳製作委員会委員長。1級愛玩動物飼養管理士。
webライター、ペット用品メーカー勤務などを経て、2019年2月に愛猫のための生涯使用型手帳「ねこライフ手帳 ベーシック」を発売。手帳の普及を通じて、人間が動物との暮らし方を自発的に考えていくペットライフの形を提案している。自宅では個性的な保護猫3頭に振り回される毎日。