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ペット保険 コラム

 ペット保険の現状に覚えた違和感

近年のペット保険に対する関心の高さは理解していても、
「29.6%」という数字を見て、私は驚きました。

上記の数字は、株式会社矢野経済研究所が2020年12月に行った「ペット飼育者の消費行動に関するアンケート調査」において明らかになった、日本国内のペット保険加入率です。

2019年までに各企業や業界団体によって行われたペット保険についての調査では、実施年が新しいほど加入率の数字は伸びているものの、最も高い結果でも12%前後でした。

そこにいきなり「29.6%」という、倍増どころではない最新のペット保険加入率が飛び込んできたことに、私は正直「なんで?」と、違和感を覚えたのです。

ペット保険市場は目覚ましい成長に

「月々わずか○円」「終身だから安心」といったフレーズが大きく躍る広告を、最近よくネット上で目にします。

日本では1995年から発売が始まったペット保険ですが、近年は異業種による参入も増え、株式会社富士経済の調査によると、市場規模は2019年度の段階で824億円という数字が出ています。

それまで毎年度15~20%の成長を続けていたこと、そして29.6%にまで跳ね上がった加入率から考えるに、あくまで想定ながら、これを書いている2021年上半期の時点では、市場規模が1000億円、あるいはそれ以上に膨らんでいる可能性も考えられます。

ペット保険 猫

ペット保険に加入する理由と心理

自宅で暮らす愛猫、愛犬たちの寿命が延びていること、家庭動物に対する「家族としての認識」がより深くなっていること、以前一緒に暮らしていた愛猫、愛犬に多額の医療費が掛かった経験から、新しく迎える子には前もって経済的負担へ備えておこうと考える世帯の増加などが、ペット保険の需要が拡大した要因であるとされています。

各事業者はそのニーズにこたえるべく、各々が持つペット保険商品のメリットを掲げたPRによって、顧客獲得を目指しているという現状ですが、自宅にいる愛猫、愛犬の将来を考えての「お守り」、そしてとりあえずどこかの保険に入っておけば、何らかの負担軽減になるだろうという、飼い主である人間自身の「心の安定」を目的としたペット保険への加入も少なくないと推測できます。

ペット保険の良い点、悪い点

人間と同じではない、ペット保険の「終身」

ペット保険には手厚い補償があるものから、月々の金額がとてもお手頃なものまで、さまざまな商品があります。加入できる年齢の制限、月々の支払い額、補償の内容やその限度など、あらかじめ確認しておくべき項目はたくさんあります。

しかし、ペット保険選びに際して最も留意しなければならないのは、
「ペット保険を、人間の保険と同じ物差しで考えてはいけない」ことです。

ペット保険と人間が加入する保険の、一番の違いであり、決して勘違いしてはならない点にもなるのが、「終身」という用語が持つ意味合いです。

人間の「終身保険」は、契約者本人が亡くなるまで契約が続きます。
よって基本的に更新という概念はなく、保険料についても原則、契約時の金額が維持されます。

しかし、ペット保険の「終身補償」は「最長の場合、ペットが亡くなるまでの期間を補償する」というもの。つまり「最長で終身」という意味合いなのです。

ペット保険の契約期間は短く、ほとんどの場合は1年となります。期間が満了するごとに更新が行われる繰り返しとなりますが、愛猫、愛犬の年齢が上がることで月々の支払金額も高くなっていったり、場合によっては保険会社から更新を拒否されてしまったりする可能性もあります。

ペット保険の「終身」は、「形の上では終身まで」というあくまで疑似的な表現だということを、飼い主はしっかりと理解しておかなければなりません。

保険会社の説明不足なのか、加入者の認識不足なのかは分かりませんが、近年、契約の更新をめぐる不満やトラブルが増えつつあるのは、とにかく残念なことです。

「安心」を求めることを、決して妥協なく。

日本の動物医療は「自由診療」です。診察、投薬、検査、手術などに掛かる金額の規定はなく、お世話になる動物病院が独自に決めた料金を支払う形となります。

そしてこの先、愛猫や愛犬に掛かる医療費がどう変化していくかも、定かではありません。仮に飼い主の医療負担におって支払う保険金が増えるとなれば、保険会社の利益も減ってしまいます。

極端な言い方をしますが、多くの事業者は「儲かるから」ペット保険に参入しているわけです。よって今の段階で「ご自宅の愛猫、愛犬を終身契約で補償する保険」というのは、ビジネス上の観点において非常に難しいといえるでしょう。

愛猫、愛犬と暮らす我々人間は、ペット保険に「安心」を求めて加入します。しかしその安心が、どこかのタイミングで消えてしまう、つまり「気休め」で終わってしまう可能性も含んでいるのがペット保険の現実であることを、我々はきちんと頭に入れておかねばなりません。

なるべく少ないリスクや経済的負担で、愛猫との暮らしに適したペット保険を選びたいところですが、ペット保険への加入は義務ではありません。保険に安心を求めることが難しいなと思った場合には妥協せず、例えば貯金するなどの選択肢を取ることもまた、愛猫や愛犬の安心につながるのですから。

ペット保険

保険をファッションにしてはいけない

まだ日本は、社会で共に生きている愛猫や愛犬、そして人間たちに対する最低限のインフラさえない状態にあるといえます。不安定な共生社会が続いたままでは、ペット保険というサービスの維持にも影響が及びかねません。

いろんなペット保険から選べるのは良いことですが、加入後の思い違いやトラブルが増えてしまっては、保険制度を提供する意味がありません。ペット保険を扱う各社には、今後も続いていく需要の増加への、アフターフォローも含めた柔軟な対応を期待したいです。

長期的に考えれば、ペット保険も人間の保険と同じく、高額な買い物ではないでしょうか。保守的な考えなのかもしれませんが、ペット保険を一時的なファッション(流行)として売り出すべきもの、そしてそのファッションに乗っかって手を出すべきものではないと思っている私には、冒頭の「29.6%」という数字が、ちょっと信じられなかったのです。

松尾 猛之(まつお たけし)

ねこライフ手帳製作委員会委員長。1級愛玩動物飼養管理士。
webライター、ペット用品メーカー勤務などを経て、2019年2月に愛猫のための生涯使用型手帳「ねこライフ手帳 ベーシック」を発売。手帳の普及を通じて、人間が動物との暮らし方を自発的に考えていくペットライフの形を提案している。自宅では個性的な保護猫3頭に振り回される毎日。