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猫の数 コラム

日本にいる猫の数は「わからない」

いきなりですが、今の日本の人口ってどのくらいか、ご存知でしょうか?

総務省統計局によれば、2021年3月1日現在の総人口は

1億2548万人であるという概算が出ています。

日本の人口を数える上で基準となるデータは、5年に1度行われる国勢調査です。
具体的には、過去の調査による推移を見ながら、おそらく2021年の○月頃は……という予測を、大まかな計算(概算)によって立てていくのです。

なお上記の概算は、2020年に実施された国勢調査の集計が終わった時点で確定人口(推計)に更新されます。

日本にいる「人間の数」が分かったところで、ここからが本題です。

では、日本にいる「猫の数」って何頭くらいなのか、ご存知でしょうか?

◆多くの人が頼りにする「全国犬猫飼育実態調査」

現在、日本の家庭で飼育されている猫の頭数を知る手がかりとなっているのが、一般社団法人ペットフード協会が2004年から実施している「全国犬猫飼育実態調査」です。
猫の数

この調査によると、2020年10月現在における国内の猫飼育頭数は、およそ964万4千頭であるという推計結果が公表されています。

犬飼育頭数(およそ848万9千頭)との差はさらに広がったものの、前年の調査(およそ977万8千頭)からはおよそ13万4千頭の減少となっています。

猫に関しては、飼育頭数に関する全国規模の調査データがこれ以外に存在しないため、テレビのニュースや新聞、ネットメディアなどが猫に関する話題を取り上げる時、「猫を飼う人が増えています」とか「猫の頭数が犬を逆転」などという見出しと共に引用するのは、この「全国犬猫飼育実態調査」で公表されている数字となります。

犬の登録頭数

◆スッキリしない2つの理由

「全国犬猫飼育実態調査」は、その名の通り全国から集められた動物の飼育に関する回答をもとに、専門業者が集計、算出を行うことでデータ化されています。

私も毎年結果資料を確認しており、この調査自体に問題はないと信じたいところではありますが、どうにもスッキリしない点が2つあるのです。

1つはシンプルに「なぜ、この調査しかないの?」という疑問です。

日本は動物愛護管理法という法律を定め、獣医師という国家資格もある国なのに、家庭で飼われている猫の数を国の主導で調査した例は、確認した限り1度もありません。

自治体単位での調査実績こそありますが、全国規模では「全国犬猫飼育実態調査」以外には見つかりませんでした。

国に代わってペットフード協会が調査しているのでは?

と考えたくなりますが、協会のHPによると、「全国犬猫飼育実態調査」が始まった目的は「ペットフードの潜在需要量を推計するため」と明記されています。

ペットフードを売るためのマーケティングをしたくても、ペットの総数が誰にも分からない。だったら自分たちで調べるしかない、というのが理由なのだろうと私は推測します。

そして現在も調査目的の中に、飼育状況の把握を意味する語句は含まれていません。

ペット飼育率向上という表現こそ足されていますが、あくまで目的はペットフードの需要拡大であり、業界マーケティングのために調査を行っているという大枠は、変わっていないことになります。

◆犬に関するデータに生まれた「大きな差」

もう1つのスッキリしない点は、この調査における犬のデータにあります。
犬の飼育登録については、厚生労働省による頭数管理が行われています。

よって飼育頭数も国から公表されています。

データは厚生労働省のHPから「都道府県別の犬の登録頭数」の全国集計から確認できます。

犬を飼う人が自治体に登録することは法律上の義務なので、理屈の上では「全国犬猫飼育実態調査」のデータと大きな乖離があってはいけないことになりますが、両方の数字が揃った最も新しい時期となる、2019年度における飼育頭数の結果を比べてみると……

都道府県別の犬の登録頭数・全国合計(農林水産省)6,154,316
全国犬猫飼育実態調査(一般社団法人ペットフード協会)8,797,000(推計)

※都道府県別の犬の登録頭数は2020年3月末現在。全国犬猫飼育実態調査は2019年10月現在。

ご覧の通り、2つのデータにはなんと260万頭以上の差異があるのです。
この差異が生まれた原因は、主に以下の2つではないかと私は考えます。

(1)犬を飼っているのに、自治体への登録を行っていない人の存在
(2)「全国犬猫飼育実態調査」の結果が、実態に合っていない可能性

(1)については、飼育未登録でも罰則がないので結構な人数がいるであろうと想像できます。

私がペット用品メーカーの通販にいた時も、ペット禁止のマンションで犬と暮らしている人から「宛名ラベルに品名を書かないでほしい」とか「無地の箱で送ってほしい」といった要望は多かったので……。

ただ、単純に差し引いて未登録数が260万頭というのもまた信じがたい数字です。

ここで(2)の原因を考えたいのですが、根拠は「狂犬病予防注射を行った頭数の割合」という項目の比較にあります。

実数が取れている農林水産省の統計では接種済の割合が71.3%なのに対し、ペットフード協会の調査では「接種した」という回答の割合が86.2%と、ここでも約15%の差異が生まれているのです。

犬でこれだけの違いがあるとなれば、届出の必要がなく「何をもって飼育とするのか?」という定義が曖昧な猫については、調査の精度がより低くなるのでは、という憶測もできるかと思うのです。

ペットフード協会の調査による猫飼育頭数の推計(964万4000頭/2020年)
に、どこまで信憑性を持てばいいのか、さらに実際の飼育頭数がこれより多いのか少ないのかも、不確定な要素が多すぎて私にはわかりません。

ただ1つ、「ペットフード協会はあくまで自らのマーケティングのために調査を行っており、正確な飼育頭数を報告する立場を負っているわけではない」。

この認識だけは正しく持っておくべきだと私は思います。

全国犬猫飼育実態調査

◆2019年度は5万頭を超える猫が保護された

猫の数は、飼育頭数だけに限りません。

何らかの理由によって飼い主のもとを離れてしまった猫、さらには外で生まれ、外で暮らしている猫の把握も必要となってきます。

これについての手がかりは、環境省から報告されている引取り状況の数字で見ることができます。

猫飼育頭数

上記の53,342頭が、この年度における「保護猫の数」となります。

ちなみに動物愛護管理法の改正で終生飼養が義務となり、2019の9月から各自治体は、飼い主からの引取りを拒否できるようになりました。

この年度は施行の前後が混在するため、飼い主からの引取りにも数字が入っています。

保護猫は15年前(237,246頭)から8割近く減っていることになりますが、まだ5万頭以上もの数があるということは、いまだ行方が分からない猫や地域猫など外で暮らしている猫の頭数、そして出産と絶命による数の変化も含めて、全体の頭数をどのように推測すればいいのか見当がつきません。

◆猫にも登録制を求めたい

日本にいる猫の数といっても、よく考えればこの国にはいろんな場所、いろんな環境に猫がいます。

家庭にいる猫、ペットショップなど流通の場にいる猫、保護施設にいる猫、外で生きる猫……人間以上に数の把握が難しい現状を分かっておく必要があるのです。

よって表題のとおり、この国にいる猫の頭数は「わからない」というのが、私の結論となります。

犬は飼育登録が法律で義務づけられており、厚生労働省による頭数管理が行われています。また牛や豚などの家畜動物も、農林水産省による調査が毎年実施されています。

それぞれ目的の大義名分はありますが、現実的には狂犬病や家畜伝染病への対策。

つまり「人間にとって怖い病気を持つ可能性のある動物の数は、ちゃんと数えておこう」という意図が推測できます。

もし、猫は人間に対する伝染病の心配がないから無理に調べなくてもいい、というのが猫の数を調査しない理由だとすれば、猫と一緒に暮らす人、猫に携わる人が大勢いるこの社会に対する理解不足が過ぎないか?

と、正直悲しくなりますね。

猫にも全国的な登録制を導入してもらいたいというのが、私の希望です。

すでに一部の自治体では実施、さらに条例化もされているので、時間はかかっても不可能ではないはず。

愛猫と飼い主の紐づけを行い、終生飼養の責任をより明確なものにすることで、ネグレクトや多頭飼育崩壊の歯止めにもなるかと思います。

猫の頭数をより詳しく調査、把握することが「不幸な猫を増やさない」という目的につながるのは間違いありません。

猫の頭数がわからない、という現状を変える意味でも、まずは犬と同じレベルで飼育の定義を考えられる社会を望んでいます。

日本の人口

松尾 猛之(まつお たけし)

ねこライフ手帳製作委員会委員長。1級愛玩動物飼養管理士。
webライター、ペット用品メーカー勤務などを経て、2019年2月に愛猫のための生涯使用型手帳「ねこライフ手帳 ベーシック」を発売。手帳の普及を通じて、人間が動物との暮らし方を自発的に考えていくペットライフの形を提案している。自宅では個性的な保護猫3頭に振り回される毎日。