Must read:「猫が30歳まで生きる日」を、喜んでばかりはいられない。

猫 コラム

「猫が30歳まで生きる日」を、喜んでばかりはいられない。

人間と猫が一緒に暮らす環境の変化に合わせて、
動物の医療も研究、開発、進歩が絶え間なく続いています。

40年前には3歳前後だった猫の寿命も、今では15歳を超える長さに。

愛猫と1日でも長く過ごせるのは幸せなことですが、

20年、さらにはそれ以上、となった時……

愛猫と同じだけ、年を重ねていくことになる飼い主(=あなた)にも
しっかりと考えておくべき問題があります。

 

◆多くの愛猫家が待望する「腎臓病の治療薬」

老猫
『猫の腎臓病に有効な治療薬が開発されようとしている』

この報道が流れたのは、2021年の夏。

 

血液中に含まれるタンパク質の一種「AIM」に、腎臓の老廃物をきれいにする作用があることを発見した東大大学院の宮崎徹教授が新薬を開発した、と伝えられました。

 

長年AIMの研究を続けてきた宮崎教授によると、
なぜかネコ科が持っているAIMについては、遺伝的な理由で腎臓の働きに作用しないことが分かったそうです。

 

言い換えればこの発見は、
「猫の腎臓に疾患が起きやすい理由を解明した」ことを意味します。

ならばこのAIMを、マウスから培養細胞で大量につくって精製すれば、猫の腎臓病治療に役立つのではないかという発想になり、今回の治療薬研究に至りました。

 

報道では「開発した」という表現になっていましたが、
実際には「開発の一歩手前で、研究費不足に陥っている」という話に。

 

しかし、このお金が足りない件についても広く報道されたことで、
東大基金には愛猫家を中心に、短期間で多額の寄付が寄せられたそうです。

 

この治療薬が実用化されれば、
家庭猫の寿命がさらに延びて、30歳まで生きる個体も出てくるだろう――

宮崎教授自身も「猫が30歳まで生きる日」という著書の中で、
猫の腎臓病が発生する原因を解明したことで、AIMを利用して腎臓病予防につながる道が開ければ、家庭で暮らす猫の寿命は大きく延びる。

 

そして現在の平均寿命の2倍、つまり30歳まで生きることも可能だと述べています。

 

◆想像できる?「超シニア期」の愛猫ケア

腎臓病 猫

もし今回の新薬が広く普及し、腎臓病の治療だけでなく予防薬としても普通に使われるようになれば、現在家庭で暮らす猫たちの寿命も、延びる可能性があるでしょう。

 

もちろん、日頃の体調管理やストレス管理もしっかり行う必要はありますが、
この先25年、30年と生き続ける愛猫の姿も、現実に見られるかもしれません。

 

ただ、この話を手ばなしで喜んでいて良いものか。

 

しっかり世話をする人間の存在があってこその「愛猫の長寿」であることを、
われわれ人間は、改めて考え直すきっかけにもしなければいけません。

 

過程で暮らす猫や犬の寿命が10年、15年と延びたことによって、
人間が動物を飼い、育てる中で求められる意識として、
昔は想定されていなかった「シニア期」の概念が加わりました。

 

早ければ7歳から老化に対する備えを、という声もあるように、
現在は愛猫の年齢や体質に合わせて、フードやサプリメントの与え方も多様化しています。

 

しかし老化というのは、内臓疾患に限ったことではありません。
肉体の衰えはもちろん、認知症や問題行動へのケアが必要となる場合もあります。
もちろん自宅でのケア、そして通院にかかるコストも考えないといけないでしょう。

猫の健康寿命については、腎臓の状態以外にも目を向けるべきことが多数あります。

 

腎臓病を改善できたからといって、老化と向き合う気持ちの備えまで、先延ばしできるものではないのです。

 

平均寿命が15歳という現状でも、シニア期の生活には多くの苦労や負担を伴います。

これが20歳、25歳と生きていく「超シニア期」となった時、人間が愛猫に施すべきケアは
どのように変わっていくのか、少なくとも私はまったく想像できません。

 

でもあえて言うなら、医療費やペット保険の概念が変わっていく可能性は、ちょっと頭に入れておいたほうが良いような気もします。

 

◆大事なのは“一緒に”長生きする気持ち

愛猫ばかりが元気に過ごしているだけでは、人間との共生は成り立ちません。

我々人間も愛猫と歩調を合わせて、健康寿命を保つ意識を持ちながら日々を暮らしていくことが、この先より強く求められることになります。

 

現実として想像するのが早いでしょうか。

 

いま愛猫が5歳だとすれば、30歳まで生きると仮定して、あと25年。

あなたは25年経っても、愛猫の世話がしっかりできる家族でいなければなりません。

 

これが動物愛護法に定められた「終生飼養の義務」そのものであると考えれば、
目の前の愛猫に対する責任の重さを、否応なくずっしりと感じられるのではないでしょうか。

世帯によっては、動物との暮らしも「老老介護」となるのか……
笑いばなしではなく、本当にそんな時代がやってくるかもしれません。

 

猫が年を重ねていく分だけ、人間も確実に年を取ります。

愛猫のためには自分も頑張らないと、という気持ちで、一緒に元気で長生きする気持ちも必要ですね。

 

◆「自分の年齢+30」を想定して迎え入れる時代に

猫の寿命
これから先、愛猫の寿命がどんどん延びていく未来を考えた時。

新しく猫を迎え入れる時には、終生飼養に対する意識だけでなく、
長いスパンで共に暮らしていくための「ライフプランニング」についても、人間の生活並みに考える必要があるかもしれません。

 

これは事実だったと思うので書きますが、

ひと昔前には「かわいい猫を飼おう」という気持ちだけで、気軽に迎え入れることができた時代があります。

 

ただ、そこには「寿命は数年程度だと考えれば、目の前にいる猫は間違いなく、自分たち人間より先にこの世を去る」という確信があっての行動も、きっとあったはずです。

 

しかしこの先、「猫の寿命は30年」という世の中になったら、話は大きく変わってきます。

人間側の年齢によっては、愛猫よりも自分の老いや体調不良を心配する必要が出てくるかもしれない。家族がいればまだしも、単身の世帯ならこれは大問題となりますね。

 

猫の平均寿命が30歳となったならば。

たとえば、まだ小さな子猫を迎え入れるとして、
世話をする自分の現在の年齢に30を足した時のことも、ちゃんと想定しておかなければなりません。

 

猫の寿命が延びることは、人間側の責任も大きくなる。

 

その覚悟を伴った上での飼養が当たり前となった時、

場合によっては「愛猫の世話を、他者に引き継ぐ」という新たな義務が生まれることになります。

 

現にその必要性は徐々に大きくなってきていますが……
この話、次回に続きます。

松尾 猛之(まつお たけし)

ねこライフ手帳製作委員会委員長。1級愛玩動物飼養管理士。
webライター、ペット用品メーカー勤務などを経て、2019年2月に愛猫のための生涯使用型手帳「ねこライフ手帳 ベーシック」を発売。手帳の普及を通じて、人間が動物との暮らし方を自発的に考えていくペットライフの形を提案している。自宅では個性的な保護猫3頭に振り回される毎日。