コラム:今日も、猫に学ぶ。(2)

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思えば、ムツゴロウさんに救われた。

我が家に猫を家族に迎え入れようと決めたのは、今から6年前のことです。

それまでの私のペット歴といえば、子供の頃に犬を飼っていた(それもたまに散歩に連れていくだけ)程度で、猫となれば、1度だけ行った都内の猫カフェで少し触った程度。家の中で毎日を一緒に暮らすイメージなどまったく持てない状態でした。

 

そんな私がなぜ猫を、という理由については多々あるのですが、
最も大きかったのは、当時ペット用品の企業で働いていたことが関係しています。

キジトラ

日々、愛猫家・愛犬家と対峙してきた私に足りなかったもの

社内では小売部門の担当で、最初のうちは受注に関する業務に追われる日々でしたが、
いつしかユーザーの方々からいただく質問やお問い合わせの中に、愛犬や愛猫へのしつけや健康管理など、毎日の暮らし方に関する相談の件数が増えてくるようになります。

 

当時、ペットの飼育頭数が増加傾向にあっただけでなく、家庭にいる愛犬、愛猫の年齢が上がっていく中で、シニア期のペットケアを考える必要性を意識する世帯が増えてきたこともあり、相談の内容もより難しく、複雑なものとなっていきました。

 

家庭動物に関する資格こそ持っているものの、お客様からの切実なお問い合わせに、頭の中の知識だけで対応していくのには限度がありました。実生活で動物と暮らす方々と、その日常がない私との温度差の広がりが、やるせなさへと変わっていきます。

 

どこかで覚えたアドバイスではなく、自分もその日常を共有してこそ、プロの仕事。

 

前々から妻と「ウチは子供いないし、いつか猫と暮らせたらいいね」という話をしていたこともあって、猫を迎え入れようという決断は思いのほか、早くできました。

今日も、猫に学ぶ。

ただ情報を得ることで、安心しようとしていた私

とはいえこれまで、猫と寝食を共にした実践経験がない私にとっては猫との生活に対する不安ばかりが先行して、ついついインターネットでいろんな情報を調べたり、猫と暮らしている友人から話を聞いてみたりなど、昭和の詰め込み教育で勉強してきたスタイルそのままに、とにかく「予習すること」に集中していました。

しかし、ひたすら頭の中を膨らませることにこだわって、その真偽も分からないまま「猫は○○な生き物です」「猫は○日ぐらいで○○をしましょう」といった話を信じて良いものか。

情報をひたすら量にこだわって手に入れ続けることが、その先にある猫との暮らしに良い影響など及ぼすわけもないのは、冷静に考えれば分かることです。

 

「猫は1日14時間ぐらい寝る生き物です」
「猫じゃらしだけでなく、ネズミのおもちゃも与えたらよく遊んでくれるよ」
「猫がしっぽをピンと立てたら、たぶん抱っこしてもOK」
「猫草は食べさせたほうがいいと思う」

 

本当だろうか。

 

本当にその通りだと思って実践すればいいのか、想像がつかない。
まだ家に猫がいないうちから、悩みの沼にどっぷりとハマっていた私。見聞きした多くの知識やアドバイスを鵜呑みしただけで、自分の中で整理ができずに消化不良を起こしていたような感じでした。

 

だったら何も見ず、話も聞かずにいれば良かったのだろうか。
でもそれだと、あまりに準備が至らなすぎるし……

悩める私に、ひと筋の光を差し込んでくれた人がいました。

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マニュアルではなく、心をもって暮らす大切さを知る

最近は飼い方をマニュアルで考える人が増えているけど、それでは猫のことは理解できないし、つまらないですよ。

猫は全部違うんです。ヒゲの生え方も、ヒゲの動かし方も。

 

雑誌のインタビュー記事で見つけた、ムツゴロウこと畑正憲さんの言葉。

 

これまで数多くの動物と接し、時には危険な種の生き物たちに対しても命懸けでぶつかり、気持ちを通い合わせてきたムツゴロウさんの「心から猫と向き合う姿勢」に、目を覚ましてもらったような思いがしたのです。

 

人間と猫を置き換えて考えてみたら、自分の過ちにはすぐ気づくことができます。

 

「人間は1日8時間ぐらい寝ましょうと教えられている生き物です」
「スマホだけでなく、携帯ゲームも与えたらよく遊んでくれるよ」
「人間がテレビやDVDに夢中になっていたら、たぶんどこかへ行ってもOK」
「白いごはんとチョコレートは食べさせたほうがいいと思う」

 

猫という、生物学上の枠を出ない固定観念ばかり頭に入れても仕方がない。

 

人間もそれぞれ体格も内面も身体能力も違うということは誰でも分かっているのに、猫も同じくそれぞれに個性があって当たり前だということに、私はなんで気づかなかったのだろうと、自分自身が情けなくなった思いでした。

 

どんな個性を持った猫がやって来るのか、まだ何も分からない状況なんだから、必要なのは悩むことではなく、ワクワクや好奇心を持つこと。
思えば、私の前にある視界が一気に開けた瞬間だったかもしれません。

 

猫という、ムツゴロウさんいわく「目の前にいる不思議な物体」と暮らすための心の備えができた私は、いよいよ我が家の新しい家族となる、愛猫との暮らしを始めるのでありました。

松尾 猛之(まつお たけし)

ねこライフ手帳製作委員会委員長。1級愛玩動物飼養管理士。
webライター、ペット用品メーカー勤務などを経て、2019年2月に愛猫のための生涯使用型手帳「ねこライフ手帳 ベーシック」を発売。手帳の普及を通じて、人間が動物との暮らし方を自発的に考えていくペットライフの形を提案している。自宅では個性的な保護猫3頭に振り回される毎日。