「猫はどこから?」日本と海外の比較
猫を家族に迎え入れるきっかけは、「購入、譲渡、保護(拾う)」の3つに、大きく分けられます。
購入や譲渡のように、準備や計画を整えた上での迎え入れもあれば、いきなり「外で拾った」というケースもあるでしょう。愛猫との出会いについては、人によってさまざまな経緯やエピソードがあるかと思います。
では、海外の猫については、どのような形で家庭に迎えられるのでしょうか。
国や地域ごとに「購入、譲渡、保護」のバランスがどのように変わるのか、調べてみました。
◆日本の場合 ~ まだまだ低い、保護猫譲渡の認知
愛猫を迎え入れた理由について、まずは日本国内の調査結果を見てみましょう。
意外に思われた方も多いかもしれませんが、回答の約3分の1が「外にいる猫を拾った」となっているのです。
犬と違って猫は、国や自治体による管理(届出、予防接種の義務など)が行われていません。(愛犬についての同調査で「外にいる犬を拾った」と回答した割合は、わずか2.1%でした)
年間5万頭前後と推定されている保護猫以外にも、外で暮らしている猫が多数いることを示す数字ではないかと思います。
もう1つ、日本では里親団体やシェルターからの譲渡数が、まだまだ少ないことも分かります。友人や知人以外にも、譲り受けられる相手があることに対する認知度の問題かもしれません。
譲渡会の開催については地域差もあるため、マッチングサイトの活用など、リモートで保護猫と面会できる機会が増えることにも期待したいです。
◆充実したシェルターを持つ国が多い欧州
ヨーロッパは動物愛護、動物保護に対する意識が高い国も多く、シェルターからの譲渡が一般的な方法とされているようです。
ペットショップの生体販売については、ほとんどの国で厳しい規制が取られていることから、購入する人の割合は少ないと想定できます。
動物愛護発祥の国・イギリスには、数多くの民間シェルターがあります。
その1つ、ロンドンにある「バタシー ドックス&キャットホームズ」は、設立160年の歴史を持つ国内最大級の保護施設です。
この施設では、年間に3500頭以上の猫が救助されていますが、施設にいる猫の頭数は常時200頭余りで、平均の滞在日数は22日。いかに多くの人が、この施設から猫を引き取っているかが分かります。
ドイツでは、「ティアハイム」と呼ばれるシェルター(動物保護施設)が有名です。
保護された猫の中には、飼い主が不明あるいは死亡したことによって引き取られた猫、さらには不適正な飼育を理由に、獣医局が飼い主から没収した猫も数多くいるのだとか。
保護された猫たちは、多くのスタッフやボランティアの手により、広く開放的なスペースで飼育され、新しい飼い主への譲渡率は9割以上にものぼっています。
国内の各地に設置されているシェルターや、規模の大きい保護施設の存在は、動物愛護精神が高い欧州ならではの光景といえるでしょう。
引き取り手のない猫(犬など)に用意されている、広い受け皿そのものが、これから猫と暮らしたいと考える人たちに、「猫はお金で買うものではなく、責任をもって引き受けるもの」という認識を持ってもらえる効果につながっているのかもしれません。
◆アメリカは州によってバラつきも
アメリカに目を向けると、以前は購入が主流となっていた猫の迎え入れに、変化が出始めているようです。
2019年、全米で初めて、繁殖された生体をペットショップで販売することを禁じる法律が、カリフォルニア州で施行されました。
2020年にはニューヨーク州でもペットショップで猫、犬、ウサギの販売を禁じる法律が可決。
他の州でも、シェルターにいる保護猫、保護犬の引き取りを公に奨励する動きが増えており、「譲渡」への意識は、人口が多い州を中心に高まりを見せているようです。
アメリカでは、保健所のシェルターや、アダプションセンターと呼ばれる保護施設、愛護団体、里親団体などが、譲渡の窓口となっています。
しかし、アメリカは各州の独自権限が認められている国なので、家庭動物に関する規制も州によってバラつきが見られます。依然として生体を展示したペットショップが多数ある州もあれば、シェルターのスペース不足によって、多くの猫や犬が殺処分されている州もあり、動物愛護についての足並みは、まだまだ揃っていないのが現状かもしれません。
◆欧州にもペットショップはある。生体販売もある。
十分な法整備がない、保護施設が少ない、生体の売買がビジネスとして確立されているなどの理由で、動物愛護に対する意識が低い、または高揚の途上にある国や地域も多くあります。
外にいる猫を保護し、譲渡する活動が普及していない国や地域においては、ペットショップからの購入、あるいは外で拾う形での迎え入れとなることが想像できます。
しかし、動物愛護の意識が高い国においても、猫や犬の生体売買がまったくないわけではありません。
イギリスやドイツでも、ペットショップでの売買は現在も行われているといいます。
生体展示の禁止、子猫や子犬の販売規制といった、詳細に関する制限は厳しくなっていても、生体を販売すること自体は禁じられていないのが理由です。
他国についても調べましたが、販売そのものを禁じているのは北欧のスウェーデンぐらいでしょうか(あくまで私調べです)。厳しい法律で知られるスイスにおいても、ペットショップの規制は生体の展示までで、販売することについては禁止されていません。
◆今後増えるかもしれない「猫のインターネット購入」
ここで問題になってくるのが、海外ではまだ規制がゆるいとされている「インターネットによる非対面通信販売」による購入です。
すでに犬においては、欧米やオーストラリアなど、多くの国でインターネット販売が盛んに行われているといいます。いずれも非対面での販売を認めているため、売る側も買う側も、匿名性が高い形で取引が行われていることになるわけです。
最近になって、アメリカ、イギリス、スイスなどの国では、販売者の情報と、犬の生産地や飼育地の明記を義務づけるようになりましたが、猫に関する規制については、ほとんどないというのが実情であるようです。
今後、欧米などの国においては、インターネットによる猫の購入が、法の網をすり抜ける形で増えていくことも十分に考えられます。
ペットショップに対する厳しい規制が、違う形で骨抜きになってしまうだけでなく、海外に存在する、悪質なブリーダーの合理的な流通手段となる可能性も否定できません。需要が高まる前の、早急な法整備を期待したいです。
ちなみに日本では、動物愛護法によって非対面販売が禁止されているため、インターネットだけで生体の売買を完結させることはできない仕組みになっています。
動物愛護施策に関して、日本が世界より先んじている、数少ない例の1つかもしれません。
◆コロナ禍の需要をバブルにしないために
日本や中国などのアジア地域では、コロナ禍によってペットショップでの「購入」が増加し、個体の取引価格も上がっているといいます。
アメリカでは猫や犬の引き取り希望者が急増しており、ニューヨーク市内では、引き取りの希望者が通常の10倍になったシェルターや、相次ぐ「譲渡」によって、猫や犬が1頭もいなくなったシェルターもあるというニュースを目にしました。
自宅時間が長くなったこと、友人や知人との接触が減ったことなどで、心のうるおいを猫に求めるべく、「購入」や「譲渡」を希望する人の気持ちは否定できません。
ただ、「いつもの毎日じゃないから、寂しいから、猫と暮らしたい」という、責任や覚悟が伴っていない迎え入れ方が少なくないのでは、という不安を感じるのも事実です。
コロナ禍で数多く迎え入れられた猫たちが、「必要なくなった」という理由で棄てられてしまうことは、もうあってはならない時代です。
「猫に求めた需要を、献身的な愛で返す」という人間の義務が果たされなければ、コロナ禍のひと時は文字通りのバブルとなってしまいます。バブル崩壊の代償を再び保護団体が背負うという、格好の悪い事態だけにはなってほしくありません。
欧米の保護団体では、コロナ禍が落ち着いた後、また棄てられる猫が出ないよう、飼い主に対して譲渡後のアフターケアを積極的に行う動きもあるそうです。
「購入」や「譲渡」によって家庭に迎え入れられた猫たちが、1頭残らず、家族のもとで終生まで幸せに過ごせることを、私は願っています。
松尾 猛之(まつお たけし)
ねこライフ手帳製作委員会委員長。1級愛玩動物飼養管理士。
webライター、ペット用品メーカー勤務などを経て、2019年2月に愛猫のための生涯使用型手帳「ねこライフ手帳 ベーシック」を発売。手帳の普及を通じて、人間が動物との暮らし方を自発的に考えていくペットライフの形を提案している。自宅では個性的な保護猫3頭に振り回される毎日。